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夜の中に溶け込むような気持ちになる度安堵するのは、その悪いものに心も身体も侵食されていくことを望んでいるからなのかも知れない。
きっと流華さんは流華さんで、何か思惑があったんだろうと思う。
ちょうど出会った便利な俺との利害の一致を、嗅覚のいい彼女が嗅ぎ当ててきただけなんだろう。
けど、この名目は悪くなかった。全部、俺のせい。
俺のために、お人よしな流華さんが慈悲深く掬い上げる。
人妻である彼女をこの腕に抱いたら、今度こそ駄目になるかな──なれるかな。
流華さんの艶やかな口唇に自分から口づけた瞬間、俺はふと昔のことを思い出した。
──俺は物心ついた時から、こんなふうに自分のことが世界で一番嫌いだった。
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