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眠れない夜に、深い闇に堕ちていきながら、それでも手を伸ばす自分がいて。
伸ばした先に見える幻は、黒髪の綺麗な女の子。
こんな自分でも、何とか抱えていけるかも知れない──好きになれるかも知れない。
唯一そう思えたあの短い時間、傍にいてくれた彼女のおかげで視た夢のようなものだった。
……愛してた。
愛していたんだ。
この世で唯一、彼女だけが俺にとって意味のあるものだった。
艶やかな長い黒髪、白く細い指、丸くて大きな瞳、ほのかに色づいた口唇。
こうして違う女を抱いている時でさえ、まだ彼女の何もかもを憶えていることを思い知らされる。
それはとても辛くて、そして幸せな瞬間だった。
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