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「……あたしにはくれないのに、よその女にあげてるの。頭に来るし腹も煮えくり返ってるんだけど、白昼のもとに晒して怒る程、もう生々しくもなくて」
「それは……」
お気の毒に、と言いかけて、口をつぐんだ。
愛情があるからなのか何なのか、流華さんは旦那さんと別れようとは思ってないようだ。
だから終わるまで、過ぎてゆくまで──待つしかないのだろう。
浮気をされたら、さっさと別れてしまえばいい。
そんなのは、お互いに何の責任もないただのカップルの理屈なのかな。
流華さんの言葉の端々に夫婦というものの重みを感じて、知らない世界を覗いたような気分になった。
ただの当てつけというには、さっきの流華さんは乱れすぎだと思う。完全に、自分の欲望に耽っていた。
本当に、欲しかっただけなんだろう。“お前のことを可愛いと思ってる”という男の熱が。
言葉もなく抱き合っていた昔を思えば、流華さんが俺を見つけるなり物欲しそうな顔をするのも無理はなかった。
愛してないのに、抱き合うことの意味は。
愛してないから、楽で痛いってことだ。
彼女にとっては、楽な方。俺にとっては、痛い方。
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