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「あのう……」
連れてこられたのは、どういうわけか視聴覚室。
うちの学校の視聴覚室は、土足厳禁の絨毯敷き。
リノリウムからこの部屋に来ると、一気に暖かく感じてしまう。何故か暖房も既に効いているみたいだし。
「芹沢ー。これやるからそこ、座って」
ブースから顔を覗かせた浅海先生は、私の目線と手元を確認する。
ひょいひょいと動かされた浅海先生の手にあるものが缶もののドリンクだと気付いて、え、と声を上げながら条件反射で慌てて手を出した。
「落とすなよ」
言いながら、ゆっくりめに放り投げる。
私の手元にくるくる飛んできた缶をキャッチすると、まろやかな甘さを全面に推したミルクティーだった。
「ナイスキャッチ。落とすかと思った」
「だ、だったら投げないで下さい……」
ははっと笑って、浅海先生も自分の分らしい缶コーヒーを片手にブースから出てきた。
どうやら先生しか入れないことになっているあのブースの中に、冷温庫みたいなものがあるらしい。
「……ここ、飲食禁止じゃなかったです?」
「そ、だから他のヤツらには内緒。こぼすなよ」
ニッと歯を見せて笑う浅海先生。どうにも腑に落ちない。
コーヒーを飲み始めた浅海先生につられて、私も「いただきます……」と言いながらミルクティーの缶を開けた。
座席は、小さな映画館みたいに後ろの方、ブースに近くなる程高くなっている。
スクリーン側の私は必然的にブース側の浅海先生を見上げる格好になる。
何だろうと思いながらちびちびミルクティーに口をつけていると、浅海先生はふと口を開いた。
「お前にこんなこと訊いていいのかどうか、よく判らないんだけど……」
浅海先生は缶を手に、肘をついて私をじっと見ていた。
「……? 何ですか?」
「一色。……一色愛美のこと」
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