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生きる理由も目的も、あの雨の夜にすべて見えない闇の中に投げ出してしまった自分は、無駄に生き長らえている気がして仕方がない。
だから、こんな身体を誰がどう使おうと──髪でも目でも歯でも、どこを持っていこうと好きにすればいい。
半ば投げやりな望みを抱えながら、それでもこうして泣けてくる自分の浅ましさに、反吐が出そうだった。
まだ、どうにかまともに生きたいと。まだ、どうにか幸せに生きたいと。
そんなこと似合っていないし、望んではいけないと思っているのに──まだ薄汚くどこかで願っている。
ばさり、とそのままベッドに倒れ込んだ。
人生には、何度目覚めるような瞬間があるのだろう。
まだまだ目の覚めるようなことはこの世の中にはあるはずなのに、それらを何一つ拾えずに、俺は毎日を繰り返している。
長い人生の過程で、恋をひとつ失っただけ。
それだけなのに。それくらいのこと、誰でも経験しているはずなのに。
鈴が鳴るような声で笑うあの娘が、まだここにいる。
代わりに俺の心を、持っていったまま──。
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