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ミルクティーの缶を両手で持ちながら、きょとんと浅海先生を見上げた。
浅海先生の眉が、わずかに寄せられる。
「芹沢、あいつの親友だよな」
「? は、はい」
とっくに知ってるはずのことを訊かれて、面食らった。
「最近、何か変わったこととかない」
「メグにですか……?」
「うん」
何だろう。メグはいつもと何も変わらないけど……。
「何もないです、けど」
まさか坂田先生のことや、今日メグとした話をするわけにもいかず。
かと言ってそれ以外でメグの担任の先生の耳に入れておくことなど、何もなかった。
歯切れの悪い私の言葉に何か思うところがあるのか、浅海先生はこっちを見ながら眉間の皴をどんどん深くする。
「それ、本当?」
「ほ、ホントです」
缶を持ったまま、肩を縮めて後ろにもたれる。浅海先生の視線には圧力があった。やっぱりこの人、Sだと思う。
ふーん……と相槌でも考え込むでもない溜め息をつきながら、浅海先生は机に缶を置いた。
コン、という音に私が驚いて身を竦めると、慌てて「悪い」と言ってくれた。
浅海先生は、坂田先生とは大学時代からの付き合いで、親友みたいな人。
私も、小学生の頃から浅海先生の姿を何度か見ていたことを思い出す。ぼんやりとした記憶しかないけれど。
そういえば、坂田先生の昔の恋人の姿も、何度か見たことがあったっけ。思い出すと、切ないものがある。
すると、浅海先生がはあ……と大きな溜め息をついた。
「さっき、昼過ぎの授業の後、あいつとちょっとやりあってな。馬鹿とかアホとか散々言われた」
「ええっ!?」
「昨日の進路調査票、あっただろ? あれ、俺が書き換えて提出したのが気に入らなかったらしい」
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