【罪を憎んで、人を憎まず。】

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   会社の人達が不愉快になるから、定時の後日が暮れてから──と無言のルールができているが、ここに毎月置かれるものはだいたい決まっている。  俺はその日の最後になるようにしている。だから多分ここに置かれているものを把握しているのは俺だけだろう。  俺と同じカサブランカ、線香、コーラ。  これは斉木家のものだ。聞いているから、知っている。  それから、毎月変わる既成の花束。  会社の入り口に常駐する警備員さんによれば、これはどうも中居の関係者らしい。どういう人間かは判らないけれど。  判らないのは、真っ白なバラの花束。  緑のかすみ草で彩られたそれは、誰が置いていったのかまるで見当がつかなかった。  これを見て、初めて色のあるかすみ草があるのだと知ったっけ。  俺ですら判らないのだから──中居の方の人間か、あるいはこの会社の人だろう。それくらいしか思いつかない。  判ったからといって、どうなるものでもないけれど。  でも、この場所のことを覚えてくれている人間が他にもいるというのは、少しありがたかった。 .
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