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備えられたものは、朝になれば警備員さんが片付けてくれるようだ。
たった一晩きりの献花だけど、それでも斉木なら喜んでくれる気がした。
その場にしゃがんで手を合わせながら、昔のことを思い出した。
6年前、斉木が死んだ時──どうしてあんなに心もとない気持ちになったのか、と。
俺がまだ、子どもだったから。
それは、そうなんだけど。
今思えば、単に怖くなったんだと思う。
親以外に俺のことを全部知ってくれている人間がいなくなってしまったから。
あの時、あの娘にそれを求めることができていたら、何か違っていただろうか。
俺の抱えていた空洞をもう少しうまく明かすことができていたら、あるいは。
毎週末流華さんに会いに行く……なんて最低なことをずっと繰り返している割に、俺の心の中は6年前から何ひとつ変わっていなかった。
行き場のないこの心がひとりきり、まだ壊れそうな俺を支えていた。
浅海さんが度々ここに来る時にこうしてそばにいてくれる理由を、俺は判っている。
何ひとつそんなことを口にしたりしないけれど多分、彼から見ても結構ぎりぎりの状態なのだろう、俺は。
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