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今の記憶を抱いたままあの日の朝に戻れるのなら──絶対に誰も死なせやしないのに。
まず目の前の現実を受け止めようとすることに必死だったから、そんなこと考えもしなかったけれど。
だから最初はそんなこと考えるだけ無駄だと思っていた。
だけど、平穏な日常は考える時間ばかりが有り余る。
ああすればよかったこうすればよかった、そういう思考だけが無数に足元に転がって、後悔の影ばかり濃くなっていくんだ。
そんな時、嫌でも思い知るんだ。
俺の人生において、現在が過去に勝てないということを。
人として、それは味気なく寂しいことだと思う。
でも、それは致し方ないことだった。
斉木も、俺の好きだったあの娘も──もう手の届かない過去にしかいないんだ。
あの頃、思い詰めたように自分の至らない部分ばかりを責めていた。
自分の罪にばかり夢中になっていたといえば、否定はできない。
けれど、本当にどうしようもなかったんだ。
大人になったら両親と同じ教師になることを決めた小学生の時、俺は自分のためになど生きないと決めてしまっていたから。
それが俺の生きる意味だろう……なんて思ってしまったから。
早くに自分の人生を決め付けた俺は、何も判っていないくせに愚かだったと思う。
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