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斉木と過ごすうち、あの娘と出会って呼吸の仕方を覚えていくうち、いつしか俺はその決意の存在など忘れ果ててしまおうとしていたんだ。
自ら背負い込んだことを忘れ、裏切った。
それこそが、全部の始まりだったんだろうと思うんだ。
斉木のことを、俺の罰だなんて自惚れたことを思ってはいけないけれど。あれは本当に不幸な事故だったんだから。
……それでも、俺が斉木の人生に関わっていなかったら、あんな状況ではなかったはずだとは思う。
あの娘の愛情も、斉木のあたたかさも、俺には過ぎたものだった。
いずれその毒が回って、死に至ってしまいそうな自分の身体の中に潜むこの病に、苦笑する。
助けてもらった人間はその感謝の証に、我を忘れて誰かを助けなければならない。
自分の幸せなど、欲しがるべきではないんだ。
時間を見計らってか、浅海さんがゆっくりと俺のそばまで車を寄せてくる。
「……終わったかー?」
やんわりと訊いてくるその言葉が、俺を労わっていた。
大人になるというのは、不思議なものだ。
波長の合う人間のことなら、何を考えているのかすぐに判る。仕草ひとつ、声の調子ひとつで。
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