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「終わりました。ありがとうございます。帰りましょうか……」
「俺んちで飲まない。何か今日はひとりでいたくない気分。寒いし」
「は?」
「考えてたら、いたたまれないんだよ」
言われて、さっき一色についての相談を受けていたことを思い出した。
初めてまともに恋に落ちた相手が、一番手を出してはいけない女、とか。
やむにやまれぬ男の事情というやつを思い出して、俺は苦笑する。
「……いいですけど、そういう時は女の子の方がいいんじゃないんですか」
ドアを開け、さっきと同じように助手席に乗り込んだ。
「と思ったけど、やりたいわけじゃないから。ちょっと、ヘコむ」
「呆れるくらい、正直ですよね。羨ましいくらい」
「お前が沈黙守り過ぎなんだよ」
鼻にかかった浅海さんの苦笑を聞きながら、俺は肩を竦めた。
……だって、思ったらいけないんですよ。
胸の奥底で燻ってるものがまだ恋しい、だなんて。
「日付変わったら、お前、25だしな。シャンパンでも混ぜとくか」
「……同僚で後輩の男の誕生日覚えてるとか、気持ち悪いですよね」
「マメっていうんだよ、こういうのは。女に対してはもっとマメだから」
「ますます嫌です、あなたって人が」
気にしていない様子でククク……と笑う浅海さんを見て、思わずこっちも笑ってしまった。
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