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「いいじゃん。おひさまの香りで、はるか。親からの愛情を感じるいい名前だよ」
「……別に褒めてもらおうと思ったわけじゃ……」
「俺だって、別にあんた褒めてるわけじゃないよ。褒めてるのは親の方」
カチンと来る。これだから物書きは嫌いだ。
会話に直球と変化球をランダムに混ぜられて、翻弄される。
兄貴と話していてもそうだ。
「……変態」
ぽつりと言い放つと、カップに口をつけていた彼の瞳がチラ……と見下ろす。その口の端が、意地悪くまた吊り上げられた。
すると虹原さんは、もう一度駄目押しとばかりに笑顔のまま口を開いた。
「文字だけで感じる女に何言われても、こたえないよ」
「……っ!」
だから。
いつどこの自分を見てそういう判断を下したの、と。
そう訊くはずだったのに。
羞恥心にもみくちゃにされて、気付いたら手を振り上げていた。
パン……と小気味よい音を聞きながら、美園さんが兄貴を評価していた時のことを、頭の片隅で思い出していた。
小説家は、基本的に華麗な嘘つき──まるで鮮やかな詐欺師のようだと。
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