“若い”と“苦しい”という字は似ている。

2/21
前へ
/39ページ
次へ
  「あなた……」  私は、薄暗くなりかけた木枯らし吹き抜ける遊歩道で、仁王立ちを決め込んだ。  私の姿を認めたその人は、驚いたように目を見開いている。  ……自分でも、何でこんなことになっているのかよく判らない。  だけど、いても立ってもいられなくなって、ここまで来ていた。  坂田先生──ううん、仁志くんには私なんかじゃ駄目。  いくら好きで憧れてるからって、私がそんなこと望んだって無駄なこと、判っている。  自分でそんな淡い望みを抱いておいて何だけど、私だって私を選ぶ仁志くんなんて、見たくない。  だからって、こんなことも放っておけない。  高そうなブランドのバッグを肩にかけて、桐谷先生は私を見つめたまま立ち尽くしている。 「海棠高校の……芹沢さん、だったかしら?」  しばらく考えてから、桐谷先生はにっこりと笑った。  やっぱり人の顔と名前を覚えるのが得意らしくて、すごいと思ってしまう。  綺麗で澄んだ声、優しくてやわらかい微笑み。  年齢だって一回り以上違うこの人に、私が太刀打ちできるだなんて思ってない。  だけど、桐谷先生の顔を見た瞬間、また悔しさが沸いてくる。 .
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

193人が本棚に入れています
本棚に追加