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「あなた……」
私は、薄暗くなりかけた木枯らし吹き抜ける遊歩道で、仁王立ちを決め込んだ。
私の姿を認めたその人は、驚いたように目を見開いている。
……自分でも、何でこんなことになっているのかよく判らない。
だけど、いても立ってもいられなくなって、ここまで来ていた。
坂田先生──ううん、仁志くんには私なんかじゃ駄目。
いくら好きで憧れてるからって、私がそんなこと望んだって無駄なこと、判っている。
自分でそんな淡い望みを抱いておいて何だけど、私だって私を選ぶ仁志くんなんて、見たくない。
だからって、こんなことも放っておけない。
高そうなブランドのバッグを肩にかけて、桐谷先生は私を見つめたまま立ち尽くしている。
「海棠高校の……芹沢さん、だったかしら?」
しばらく考えてから、桐谷先生はにっこりと笑った。
やっぱり人の顔と名前を覚えるのが得意らしくて、すごいと思ってしまう。
綺麗で澄んだ声、優しくてやわらかい微笑み。
年齢だって一回り以上違うこの人に、私が太刀打ちできるだなんて思ってない。
だけど、桐谷先生の顔を見た瞬間、また悔しさが沸いてくる。
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