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「やべ。見つかった。じゃあハル、またな」
「え!? ちょっと……」
止める間もなく虹原さんは立ち上がり、駆け出していった。
「岳ちゃん、待ちなさいよ! アナタ、こんなところで茶ぁしばいてる場合じゃないでしょー!」
虹原さんを追っているのはものすごく強面の男性だった。
なのに口調は完全に女性のもの。あれは怖い。
あたしの前をドタドタと駆け抜けていくいかつい男性から逃れるように、虹原さんは器用に返却口にトレイを戻し、そのまま自動ドアをすり抜けて外へ出て行ってしまった。
いかつい強面もまた、そのまま外へと出て行ってしまう。
……原稿取りだったんだろうか……。
驚いたついでに、拍子抜けしてしまった。
ぬるくなったカップの中身に目を落とし、あたしは改めてバッグの中からさっきの名刺を取り出してみる。
虹原さんの名刺には、ご丁寧にも携帯の番号とメールアドレス、おまけに仕事を受注するためであろう、パソコンのアドレスまでが記載されていた。
またな、と言って去っていったってことは、また現れるつもりだろうか。
思わず聞き流してしまいそうだった書店のチカンの話も気になってきて、あたしはトレイを持って立ち上がった。
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