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「桐谷先生に、お話があって来ました」
まだ子どもみたいにか細い私の声。
感情を押し殺して、一生懸命低い声でそう言ったつもりだったけど、ドラマの俳優さんや女優さんみたいなビシっと決まった声が出るはずもなく。
無理をして少し震えてしまった私の声に何か感じたのか、桐谷先生はわずかに眉を寄せた。ほんの、一瞬だけど。
「……何かしら」
構えられたのが、判った。
桐谷先生のその雰囲気だけで、完全に場数が違うのだということを突きつけられてしまった。それでももう後に引けない。
と、ちょうどその時、バタバタと後ろから足音が聞こえてきた。
多分、さっき駅に置き去りにしてきた涼太くんとメグだ。
「朱音!」
涼太くんが制止の意味を含んだ声を上げる。
聞こえなかったふりをして、私は桐谷先生の顔を睨むように見つめる。
「仁志くんと、別れて下さい! あなたじゃ、駄目なんです!」
言い切った瞬間、グイと涼太くんに腕を掴まれた。
その後ろから、心配そうな顔をしたメグが私と桐谷先生を見比べている。
「お前、馬鹿かっ!」
「馬鹿じゃないもん!」
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