【それを人は運命と呼ぶ。】

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  「……陽香……」  そう呟いた俺の顔を、車をゆっくりと脇に寄せながら浅海さんが覗き込む。 「おい? お前今なんて……?」  狭い車内で俺の動揺が伝染したのか、浅海さんの声がわずかに強張っていた。  頭が、真っ白になっていて──俺の瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。  ……馬鹿じゃないのか、俺。  どこが、遥か遠くの対岸の出来事だ。どこが、異国の出来事だ……。  時間が経ちすぎて、追いかけることすら忘れてしまったこの身体の芯に、痛い程の残り火が揺らめいていた。  たったひと目陽香を見ただけで息を吹き返した恋心に、裏切りとか贖罪とかそんなもの全部身体の内側から吹き飛ばされて──ヒリヒリと全てが、痛い。  夢だけで会えるならそれでいいだなんて、どうしてそんなこと思えたのだろう。  それよりも、どうしてあの時彼女と離れようとしか思えなかったのだろう。  陽香はこんなに──こんなに俺の身体の一部になっていたのに。 .
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