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「お前、ばっかじゃないの」
俺にも傘を翳しつつ、ふー……と煙草の煙を吐きながら浅海さんが真後ろで楽しそうに呟く。
思春期の青臭いガキみたいにぼろぼろ涙をこぼしていたところを、この人に見られたせいだ。
「……うるさいですよ。鬼の首を取ったみたいに、言わないで下さい」
「なにー? なんか言った? 仁志くぅん」
さすがに、イラッとした。
俺が黙ったまま小さく舌打ちをすると、浅海さんはケラケラと笑い出した。
「ばっかだなぁ。失ってから気付くなんて駄目だよって、先人達は口が酸っぱくなる程言葉を残してくれてるのに。今生きて活躍してるミュージシャンだって、何人同じこと言ってんの。賢いくせに、仁志くんは馬鹿だなぁ」
目の前に供えられたコーラの栓を抜いて浅海さんにぶちまけてやりたかったけれど、さすがにここではできない。
「ハルたん見かけたくらいで泣き出すとか、ほんと、馬鹿」
「見かけたくらい、じゃないですよ」
俺は低い声で唸るようにそう言いながら立ち上がると、のろりと浅海さんを振り返る。
「7年ですよ。それがどのくらいの時間か、なんて俺だってよく判ってます」
「んーと、不倫ができるくらいの時間?」
「……」
「悪かったよ。何」
「……とにかく、7年もの間一度も会わなかったんですよ」
「それがどうした」
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