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「お前が斉木くんの女助けなかったら、彼の子どもも生まれてないよな」
「……」
「ハルたん、そういうこともちゃんと聞きたかったんじゃないのか。他の誰でもないお前の口から……そんで、辛かったねって、お前と一緒に泣きたかったんじゃないのか」
ぎゅ、と口唇を噛み締める。
拳を、振り上げてしまいそうだった。あなたに何が判るんだ、と。
でも、できなかった。
わざと乱暴に話をしながら、浅海さんの瞳も傷付いていたから。
傷付けると判っていて、本当のことを言うのは勇気がいることだ。
その感情には、嫌という程覚えがある。
俺の痛みを把握しながら、あえてそれを口にする浅海さんに仕返しなどできるわけがない。
「俺はな、坂田」
パシャン……と足音をさせながら、浅海さんが身体の向きを変えた。
「ハルたんを信じきって心の中を打ち明けることができなかったお前も、お前が本音をわめき散らすまで揺らしてやらなかったハルたんも──ちょっと情けないよな、って思ってる」
「何言ってるんだ、浅海さん。陽香は、悪くない」
浅海さんは、急に俺を振り返った。
そして、睨みつけるような鋭い目を俺に向ける。
「お前のそういうところが、織部陽香を駄目な女にしたんだと思う」
「……!?」
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