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そしてなんで涼太がそれを知っているかと言えば──流華さんと会っているところを見られたのだ。何度も。
最初は、“ああ彼女なんだな”程度にしか思ってなかった涼太は、他校と練習試合をしているうちに流華さんも高校教師であることを知った。
流華さんの左手の薬指に指輪が輝いているのを見て、俺に訊ねてきたのだ。
「仁志くん、結婚でもすんの?」と。
そんなわけないだろ、とのらくら言い逃れているうちに、流華さんの学校の生徒から聞きつけてきたようだった。桐谷先生は結婚してるよ、と。
「朱音のやつ、仁志くんがしてるのは不倫だって知って、えっらい傷ついてて」
「当たり前だろ。俺、あの子からすれば近所のいいお兄ちゃんなんだから」
涼太の瞳が揺らいだのを見て、ハッと気付いた。
「……お前か」
「えっ」
「お前が自分で朱音ちゃんに言ったんだろ、涼太」
どうして判ったの、という感じで涼太の視線がちょろちょろとそらされる。
そのニキビひとつない綺麗な額に、もう一度、今度はきっついデコピンを入れてやる。
「いてっ!」
「信じられないな。言うか、普通」
「だって……」
「どうせ、それ言ったら朱音ちゃんが俺のこと諦めるだろうとか思ったんだろう」
「……浅はかでした。勝手に話してごめんなさい……」
しゅんとしながら涼太は自分の額を何度も撫でさする。
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