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いや、ちゃんと謝ってくれてはいるんだけど。
身から出た錆でもあるし、こうして自分からやってきた朱音ちゃんに追い討ちをかける気なんてはじめからないんだけど。
朱音ちゃんは、どうして不満そうに口唇を尖らせたりしているんだろう。
俺が考え込んでいると、一色がスッと身を引いた。引いた、というより俺の正面を朱音ちゃんに譲ったような。
「勝手なことをしたのは、心の底から悪いと思ってる……でも、仁志くん、言わせてもらうけど」
言いにくそうにぽそぽそと、でも明らかな怒りのこもった朱音ちゃんの声。
気付けば、呼び方もいつの間にか“坂田先生”じゃなくなっている。
「仁志くん、何やってるの……? こんなところであんなコドモの相手をしてる場合じゃないでしょ?」
朱音ちゃんの傷ついたような瞳に、ドキッと胸を衝かれた。
さっきの女生徒との悶着じゃない。
生徒だとか女だとか──そんな小賢しい理屈の話じゃない。
「色々しでかしちゃって、私、反省したんだ。仁志くんに合わせる顔がない、ってことまで考えた」
「……朱音ちゃん」
「そこまで考えたから、判ったことがあるの」
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