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浅海さんは俺の顔を見た瞬間、傘をくるくると回しながら、また駄目だったのかと呟いた。
俺も大概しつこいけれど、浅海さんも相当だと思う。
呆れて放り出してくれたって、全然構わないのに。
「いいかげん、折れろよなあ。もうフリでも何でもいいから、頭下げてくれりゃ丸く収まるのに。中居ってヤツ、ほんと大人気ないな」
……100パーセント俺の都合で考えてくれるこの人の情の篤さには、感服する。だから逆に俺の方が冷静になれるんだけど。
俺が浅海さんをとても好きな理由は、ここにあった。
代わりにするつもりなど、全くない。
だけどこの人は斉木によく似ている。
この人の軽さや明るさに、どれ程救われてきただろうか。だから女癖の悪さに時々ひどく呆れたりもするけれど、俺は浅海さんから離れることができずにいる。
その女癖だって、今は一色だけに絞られているから──だから黙って2人に会う場所を提供しているんだけど。
「さて、章子ちゃんの顔拝んで、花添えて帰ろうぜ。また来月も、付き合ってやるから」
何も気付いていないふりの浅海さんはそう言って車の鍵をチャリ……と鳴らした。
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