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「ダンナじゃないわ。絶対、って言い切れる」
眉をひそめながら、助手席に座る流華さんは携帯を差し出した。
それを受け取りながら、俺は黙って「そう」と頷いた。
少し迷ったけれど、俺は結局例のメールのことを流華さんに話してみることにしたのだ。
流華さんにどうにかしてもらうことを期待したからじゃない。
彼女を巻き込んでしまうことなのかどうかを、はっきりさせたかったのだ。
「あたしが何か意味があってこうして男と会ってるだなんて知ったら──あの人、あたしを引きずりながらあなたの職場まで乗り込むでしょうね。黙ってこんな陰湿なこと、しないと思う」
その覚悟がなかったわけではないけれど、それはそれで恐ろしいな、と苦笑してしまった。
「そう」
「だって、単純馬鹿だもの。あたしの携帯からあなたのアドレスを盗んで、偽装してどうのこうの──なんて頭、あの人にはないわ」
少し誇らしげに、流華さんは胸を張った。
配偶者のことをよく知っているのはいいことだとは思うけど、それはどうなんだろう。
「……そう。で、一応訊くけど、ばれてないの?」
「あたし、気付かれるような迂闊な女じゃないわ」
「女の人は、怖いね」
「気付かれてたら、まずあたしが手を上げられるだろうし」
「女の人を殴るような人なの?」
「しないけど。とりあえずショックで、あたしの頬くらい引っぱたくんじゃない。……泣きながら」
泣きながら奥さんを引っぱたくような人が何年も浮気をしていたのだから、男と女は本当に判らない。
「そっか。じゃあ、俺も自分の話ができる」
「待ってよ。他に心当たりあるの? そのメール送ってきた人間に」
「間違いで届いたのでなければ、ね。もうひとりこういうことやりそうな人、いるにはいる」
「間違いなら、それに越したことはないだろうけど……」
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