あの時から、透明なまま。

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   朱音ちゃんは両手で頭を抱えるようにして、ずるずると引きずられていく。  見たことのないその異様な光景に、本をかき分け本棚にしがみ付きながら追った。  その瞬間。 「何だ、てめーは!」  背後から、空気がビリビリと震えるような怒声が店内と突き抜ける。  本棚にしがみ付くあたしを風のように追い抜いて、黒いコートの男が本の山を飛び越えていった。 「お姉さんっ」  ハッ、ハ……と浅い呼吸を繰り返すあたしの身体を、何とか立ち上がったらしいメグちゃんが支えてくれる。  引きずる音が止まり、大きな本棚の向こうでドタリ、と一度大きく響いた。  それきり、店内は有線の軽いポップスだけが響くいつもの空間に戻った。あたし達の周囲の惨状を除いて。 「だ、大丈夫……それより、あの子」 「はい」  あたしの様子を上から下まで確かめたメグちゃんは、真っ青な顔で朱音ちゃんが消えた通路側へと駆け出した。 「あっ」  メグちゃんは小さく声を上げて、口元を覆った。  驚きのその表情だけではよく判らなくて、よたよたと歩を進める。 .
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