あの時から、透明なまま。

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   すると、通路の先で低い溜め息が響いた。 「おい、お嬢ちゃん。そこに見えてるガムテープ」  おそらくレジの中の備品のことだろう。  その声を聞いて、ほっとした。朱音ちゃんを襲った男のものじゃない。  さっき駆け抜けていった後ろ姿でもしかして、と思ったけど──虹原さんだ。  困ったように、メグちゃんはあたしを見た。  レジの中に入ることを躊躇ったのだろう。何とか頷いてみせると、彼女は安心して足を進めた。  通路までやってきて覗き込むと、虹原さんが男の上に馬乗りになっていた。  男は気絶しているようだった。サングラスとマスクが転がっている。  見たことのない中年の男だ。朱音ちゃんはその隣で呆然とへたり込んでいる。  メグちゃんがガムテープを手に虹原さんの下へ駆け寄った。 「気ィ失ってるけど、一応な。まず足、グルグル巻きにして。気をつけて」 「は、はい……」 「待って、あたし、が……」  駆け寄ろうとすると、虹原さんの鋭い瞳に睨まれてしまった。 「怪我人はじっとしてろ。今はあんたよりこのお嬢ちゃんの方が使える」 .
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