212人が本棚に入れています
本棚に追加
すると、通路の先で低い溜め息が響いた。
「おい、お嬢ちゃん。そこに見えてるガムテープ」
おそらくレジの中の備品のことだろう。
その声を聞いて、ほっとした。朱音ちゃんを襲った男のものじゃない。
さっき駆け抜けていった後ろ姿でもしかして、と思ったけど──虹原さんだ。
困ったように、メグちゃんはあたしを見た。
レジの中に入ることを躊躇ったのだろう。何とか頷いてみせると、彼女は安心して足を進めた。
通路までやってきて覗き込むと、虹原さんが男の上に馬乗りになっていた。
男は気絶しているようだった。サングラスとマスクが転がっている。
見たことのない中年の男だ。朱音ちゃんはその隣で呆然とへたり込んでいる。
メグちゃんがガムテープを手に虹原さんの下へ駆け寄った。
「気ィ失ってるけど、一応な。まず足、グルグル巻きにして。気をつけて」
「は、はい……」
「待って、あたし、が……」
駆け寄ろうとすると、虹原さんの鋭い瞳に睨まれてしまった。
「怪我人はじっとしてろ。今はあんたよりこのお嬢ちゃんの方が使える」
.
最初のコメントを投稿しよう!