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流華さんは眉をひそめる。
「……あなたの話って、何なの」
「うん。来週から、土曜日も旦那さんと過ごしたほうがいいんじゃないのって思って」
「何それ……」
流華さんはきょとんとして、ぱちぱち……と何度も瞬きをした。
俺の方に身体を向けると、流華さんは少しこちらに身を乗り出す。
「どういうこと。別れようってこと?」
「……別れるも何も、付き合ってる?」
俺が煙草を咥えて火を点けるのを見ながら、流華さんはむう……と口唇を尖らせる。
その口唇に惹かれて、思わず吸い付いていたのは──もう、ずっとずっと昔のこと。
──うん、大丈夫。
俺はもう、この人を何の未練もなく手放せる。
すると、謎が解けたかのように流華さんはハッとする。
「……あの娘? あたしに宣戦布告してきた、芹沢さん」
「そんなんじゃないよ。あの娘は、そんなんじゃない」
俺が躊躇うことなく正直に答えたのを見て、流華さんは眉根を寄せた。
その顔を見て、小さく笑いが漏れる。
「一緒に、男の子がいたでしょう。あの娘は、そいつと付き合うことになったよ」
「何それ。じゃあどうしてあたしのところに来たのよ」
「初恋の続きに、振り回されてただけだよ。俺が不倫してるのが嫌だって。やるだけやって気が済んだら、本当の王子様に気付いたらしい」
「はた迷惑な話ね。ちょっと楽しかったのに……」
「何を期待してたの。可愛い教え子以前に俺の妹分なんだから、修羅場に引きずり込もうとするのはやめてくれる」
「だって……」
流華さんは大人しく助手席に収まると、息をついて自分もバッグの中から煙草を取り出した。
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