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──それなのに。
背中の痛みがようやく引いた頃、まるで見計らったかのようにそれは訪れる。
レジの中で閉店準備をしているところに、深く沈んだモスグリーンのコートを着た仁志くんが現れた。
今日のあたしの隣には、珍しく小石川さんが立っている。
先週怪我をしたことを気遣ってか、陽が落ちてから小石川さんは店内に立つようになっていた。
店内に足を踏み入れた仁志くんは、真っすぐにあたしを見ていた。
小石川さんはそれに気付くと、その場で固まってしまったあたしの肩をポンポンと叩く。
「オリちゃん、知り合い?」
仁志くんの意味ありげな視線とあたしの反応で何となくそれを悟ったのか、小石川さんはうんうんと頷きながらレジから一番遠い主婦向け雑誌のコーナーで整理をしているバイトの方へと行ってしまった。
違うと否定する間もなく。
小石川さんのそんな気さくさが、今日は恨めしくなってしまう。
泣きそうな自分を奮い立たせ、必死に営業スマイルを貼り付けた。
「……いらっしゃいませ」
仁志くんは、まだその場に立ち尽くしている。
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