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不審に思って首を傾げると、彼はハッとしたようにぱちぱち、と何度もまばたきをした。
「あの……?」
仁志くんは少し慌てた様子でああ、うん、と曖昧な返事をする。
そして、何か諦めたかのような頼りない笑顔を見せた。
「びっくりした……ここだったんだね、君の職場」
「え?」
判って来たんじゃないの?
その時、脳裏に昔見た浅海さんの悪戯っぽい笑顔が浮かんだ。
彼だ。彼の仕業に違いない。
「……浅海さんでしょ?」
「うん、注文した教科書が届いてないか訊いてこいって言われて」
「あたし、浅海さんにちゃんと電話したよ。入荷は来週です、って」
「……やられた」
仁志くんは口元に手を当て、その中で小さく舌打ちをした。
まだ彼らが仲良くやっていることにホッとしながら、手元の作業に視線を落とす。
仁志くんは少し困った顔をして、それでもあたしのいるレジに身体を寄せた。
「驚かせたなら、ごめん」
「ううん。この間警察署であなたと会ってから、こういうことあるかもっていう覚悟はしてた」
「なら、よかった」
「よくないです」
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