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不機嫌をあからさまにするあたしの顔をじっと見ながら、仁志くんは黙り込む。
何か気配を感じたのか、仁志くんはふと振り返る。
つられて同じ方を見ると、奥の方のマガジンラックから小石川さんとバイトがしゅっと顔を引っ込めた。
困惑した様子で、仁志くんは後頭部を軽く掻く。
レジから1日分の売り上げを記載した長いレシートが出てくるのを見ながら、あたしはぽつりと呟いた。
「気にしないで。珍しいんだよ、あたしを訊ねて男の人が来るってことが」
「え?」
「モテないから、あたし」
言った瞬間、仁志くんは思わずレジ棚に手をかけた。
「何言ってるの。そんなわけないだろ」
あたしを気遣うようにひそめられたその声に、一瞬どきりとする。
昔、レンタル店のスタッフオンリーの通路で、傘を差した仁志くんに甘くささやかれたことを思い出したのだ。
「ホントだもん」
「じゃあ、この間のあの男は何? 結局答えてくれなかっただろ」
「あの人は……」
答えづらかった。というか、何と答えたらいいのか判らない。
客というのはどうにもしっくり来ない。友達というには違う気がする。
昔もこういうことがあったような……。
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