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従業員専用出口から出ると、仁志くんはそこに立っていた。
少し離れたところで待っているというわけではなく、まさにそこに。
それは彼自身の余裕のなさというより、あたしを追い詰めるためだけにそうしているとしか思えなかった。
くすくすと笑いながら表のシャッターを閉めに出てきた小石川さんに「今日はここでいいよ」と言われ、また泣きたくなった。
仁志くんは感じのいい笑顔で「どうも」と小石川さんにぺこりと頭を下げる。
仲良く、しないで欲しい……。
「ちゃんと送ってあげてねー」などと言いながら、興味津々な視線を向けるバイトを引きずり、小石川さんは店舗の正面に回った。
やがて2人の足音が聞こえなくなって、ようやく改めて仁志くんを見上げる。
仁志くんは、火の点いていない煙草を咥えてプラプラと遊ばせながらあたしを見ていた。
「……どういうつもり?」
「どういうって、話がしたかったから……」
仁志くんは咥えていた煙草を手の中にしまうと、じっとあたしの瞳を覗き込む。
路地裏の暗がりでも判る、色素の薄い瞳。
昔、どうしようもなく惹かれて、恥じらいながらも何度も覗き込んだその瞳は、ちっとも変わっていない気がした。
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