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──あなたがしたことなんだから、あなたがどうにかしてよ。
「今さら、何なの。仁志くんに何の権利があって、そんな……」
取り繕ったような強がりを口にすることしかできずに、泣き出したい気持ちを堪えた。
仁志くんが会いに来た。
それだけで再会を受け入れられる程、もう子どもじゃない。
さっき小石川さんも言ったように、20代も半ばに差し掛かった女には意地というものがある。
何も判らなかった少女の頃のように、恋だけのために自分を明け渡すことなど、できやしない。
たとえ心の底で、そうしたいと望んでいても。
一番やわらかな時期を逃したくせして、わざわざ難しい時期にやってくるなんて、何を考えてるの。
そう罵ってやりたかった。
「判ってるよ、そんなの君に言われなくたって、俺が一番よく判ってる。でも」
尖りかけた仁志くんの瞳の奥に、涙が滲む。
泣きそうになっているわけじゃなかった。
それは彼の心の風景だ。それに胸を衝かれ、ハッと息を呑んだ。
……そうであればいいと、呪うように考えていた。
彼も、自分と同じように忘れられずに苦しんで、泣いてればいいのに、と。
望んでいたことが目の前に現れたというのに、嬉しくない。
ちっとも気は晴れない。
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