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かたかたと、指先が震えていた。
そのまま出てきてしまったせいで、コートの前は全開だった。
くしゃみが出て、震える身体を自分で抱きしめ、慌ててコートの前を合わせた。
「おい」
ふいに背後から声をかけられ、ビクリとその場に立ち止まる。
声で誰なのかは判っていたけど、隣に岳ちゃんが追いついた。
おそるおそる見上げると、そこには微妙に不機嫌そうな岳ちゃんがいた。
「帰るなよ。まだ刑事さん達、話あるって言ってただろ」
「判ってる、けど……」
はたと手元を見ると、バッグがない。
それを岳ちゃんに示して見せると、彼はきょとんとした顔をして──そして、プッと吹き出した。
「何、それ。どんだけ慌ててたの」
「知らない、そんなの」
恥ずかしくなって、その場で俯く。
慌てて取りに戻りたいけど、バッグを置き忘れた廊下には、多分まだ仁志くんがいる。
拒否して逃げ出しておいて、のこのこバッグだけを取りに戻るなんてかっこ悪すぎる。
あたしのそんな心境を一瞬で読み取ったのか、岳ちゃんは肩を揺らして笑った。
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