透明だから、抗う。

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   あたしは、思わず自分の胸元をかきむしるように撫でていた。  今にも涙をこぼしてしまいそうな目をして、仁志くんはあたしを見つめた。 「でも……誰のものにもならないでって、思ってしまうんだ。幸せになって欲しいって願ってたはずなのに。陽香の姿を見たら、駄目だった」  仁志くんはまたこつん、と歩を進める。  身じろぎひとつできずに、それをただ眺めた。 「勝手だって詰ってもいいし、いっそのこと、気が済むまでぶってくれてもいいよ。あの時君、そうしなかっただろ」 「や、やめて……」 「ごめん、このまま帰った方がいいってことは判ってるんだけど──できない」  どろり、と昏い炎が仁志くんの瞳の奥に見え隠れする。  そこから目を離せなかった。  それは、あの時あたしがどうしても欲しかったものだったから。  仁志くんは一気に距離を詰めてくるとあたしの両手首を掴み、そのまま打ちっぱなしの壁に身体ごと押さえつけた。  バサリ、とバッグが足元に落ちた。 「仁志く──」  抗うためだったか何のためだったか、わずかに開かれた口唇を、彼は塞いでしまった。 .
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