200人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのさ、今話してきたんだけど」
「え?」
「ハルの元彼」
笑みをかたどったままの岳ちゃんの表情を見、ぱちぱち……と何度もまばたきをする。
「……彼に聞いたの?」
「いや。でも判るじゃん、なんとなく」
岳ちゃんは複雑そうな顔で、手の中のブラックの缶コーヒーを小さく揺らした。
「あんた、どうするの。ハルがあの男にめちゃめちゃホレられてるっていうの、俺にも判るんだけど」
「え」
「すんげー冷静に対処されたんだけど、目の奥がメラメラしてた。ハルに手ェ出したら殺す、って無言で釘刺された気がしたよ、俺」
さっきあたしを口説こうとした彼は、やけに楽しそうにけらけらと笑い出す。
その様子を見ながら、めちゃくちゃ困った。
最初からそうだったけど、このひとは何を考えているのか、よく判らない。
「あ、あの……」
岳ちゃんはぴたりと笑うのをやめると、あたしの手をがしっと掴む。
コーヒー缶で暖まった手のひらの感触に、ぞくりとした。
「あ、あの……岳、ちゃん……?」
「ああいう男と付き合ってたんだな、ハル。ますます興味が沸くんだけど」
「え……やだ、ちょっと放してよ」
岳ちゃんは、そっと手を離してくれた。
それが彼の慈悲だと判るだけに、よけい困る。
.
最初のコメントを投稿しよう!