透明だから、抗う。

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  「あのさ、今話してきたんだけど」 「え?」 「ハルの元彼」  笑みをかたどったままの岳ちゃんの表情を見、ぱちぱち……と何度もまばたきをする。 「……彼に聞いたの?」 「いや。でも判るじゃん、なんとなく」  岳ちゃんは複雑そうな顔で、手の中のブラックの缶コーヒーを小さく揺らした。 「あんた、どうするの。ハルがあの男にめちゃめちゃホレられてるっていうの、俺にも判るんだけど」 「え」 「すんげー冷静に対処されたんだけど、目の奥がメラメラしてた。ハルに手ェ出したら殺す、って無言で釘刺された気がしたよ、俺」  さっきあたしを口説こうとした彼は、やけに楽しそうにけらけらと笑い出す。  その様子を見ながら、めちゃくちゃ困った。  最初からそうだったけど、このひとは何を考えているのか、よく判らない。 「あ、あの……」  岳ちゃんはぴたりと笑うのをやめると、あたしの手をがしっと掴む。  コーヒー缶で暖まった手のひらの感触に、ぞくりとした。 「あ、あの……岳、ちゃん……?」 「ああいう男と付き合ってたんだな、ハル。ますます興味が沸くんだけど」 「え……やだ、ちょっと放してよ」  岳ちゃんは、そっと手を離してくれた。  それが彼の慈悲だと判るだけに、よけい困る。 .
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