透明だから、抗う。

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   ……岳ちゃんのその一言は、自分は経験豊富だという宣言。  男性のそういう宣言程嘘臭いものはないのに、岳ちゃんの声と態度には真実味があった。  わずかに熱を帯びた岳ちゃんの瞳の中に、あたしを観察するような冷静で鈍い光があった。  その瞳は、こういう人間独特のものだ。  やっぱり、兄貴とよく似てる。  兄貴も、よくこういう目で他人を見ている。熱を帯びた、氷の瞳。  その正体を知らない人間はよくその瞳を恋なのかと勘違いするけど、結局紙一重でそれは興味でしかない。だからたちが悪い。  岳ちゃんがそれをどれくらい自覚しているのかは判らないけど。  苦し紛れにこのひとの手を取ったら、どうなるだろうか──。  慌てて首を振った。  それを見ながら、岳ちゃんは肩をすくめてクスっと笑う。 「これでも、心を込めて口説いてるつもりなんだけど」 「伝わる、けど」  ギュッと手を握り締める。 「自分で、責任持てないんじゃないの? そうしてあたしを自分のものにして、知り尽くして──そしたらその後、どうなるの」  あたしの言葉に、岳ちゃんは「ん?」と意外そうに眉を上げて見せる。  その口の端に、笑みが乗っかっていた。ほら。  こういう会話すら楽しんでいるような男は、見透かされたことに腹を立てもしない。 .
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