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つるりとした裸の口唇に、リップを乗せる。
鏡の中の自分を見つめながら、溜め息をついた。
……まったく、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
昨日の昼までは、静かに穏やかに過ごせていたというのに。
女性刑事さんの言った通り、痛みらしい痛みは一晩寝てからやってきた。
年齢のせいではないとは思うけど、仕事に励みながらもズキズキと疼くような痛みを忌々しく感じた。
動く度にもたらされる重い痛みは、昨日仁志くんに抱き寄せられたことを思い出してしまうからだ。
別に、意地を張って何年もこの口唇を守ってきたわけじゃない。
それなのに、その気になれば跳ね除けられるはずだった仁志くんの口唇をそうできなかった理由が、嫌でも頭を過ぎる。
私を思い出して、とばかりに。
リップの蓋を閉じながら、ふいに泣きたくなった。
会いたかったと可愛らしく泣いて甘えるには、7年は長すぎる。
女特有の浅ましい思考が胸に過ぎって、自分が嫌になってしまいそうだ。
これだから恋は嫌。
相手への期待や依頼心ばかりが膨れ上がって、自分がいかに身勝手かってことを嫌という程見せ付けられる。
どうしようもないくらいドロドログチャグチャした感情。
そんなものは、あの一度きりでたくさん。
仁志くんと別れた時の嫉妬と慟哭だけで、あたしは一生分の複雑な感情を使い果たしたような気がしていた。
うずうずと、胸の中で長い間閉じ込めていたものが存在を主張する。
でも、その姿を見たくはなかった。
あの痛い悲しみの中には、もう戻りたくない。
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