背徳の記憶。

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  「来週は俺も早く帰れるから、調べるなら付き合うぞ」 「え?」 「確認したくなったんだろ。弘毅の立ち位置? みたいなもの」 「……まあ、そうですけど。いいですよ。浅海さんも転校生のこととかあるし、面倒でしょう」 「馬鹿。ひとりで動くなっつってんだよ」  カツカツと音を立てながら、浅海さんはお重から直接中身をかっ込む。  浅海さんはすっかりお重の中を平らげてしまい、お茶をゴクゴクと飲み干すと、溜め息をついて俺を見た。 「学校に電話してきたり、マンションの集合ポストにどろどろの生うなぎ放り込んだり。明らか、宣戦布告だろうが。弘毅のことで動くなら、用心するのに越したことないだろ」 「でも、これは俺の──」  ゴン、と浅海さんは湯呑みをテーブルに勢いよく置く。  そうして俺の言葉を封じると、浅海さんは下から睨むようにこちらを見た。 「忘れたのか。相手は、お前の親友を理不尽に死なせた女の兄貴だぞ。そんなの、お前が一番よく判ってんだろうが」  浅海さんの一言は実に的を得ていた。  冷めかけたお重をゴトン……と静かにテーブルに置き、俺は椅子にもたれて溜め息をついた。  ──だから、いいって言ってるのに。  浅海さんにそう言いたかったけど、言ったら平手でなく拳が飛んできそうで、俺は口をつぐんだ。 .
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