背徳の記憶。

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   別にこの人にボカッと一発やられたところで痛くも痒くもないけど、これ以上俺の中にある気持ちに触って欲しくなかったのだ。  7年だ。あの男の妹が死んでから、7年。  浅海さんが言うように、どうしてたったひとりきりの妹のことに、ああも無関心でいられるのか。  俺からの要求にも応えることなく、ずっと知らん顔だ。  ……嫌でも、俺が訪ねる8日には思い出すはずなのに。  すると、浅海さんはお重の蓋を元通りに重ねながら、静かに言い放った。 「俺に、お前みたいな想い、させんなよ」  ギュッ、と心臓が締め付けられた。  浅海さんの、今の一言で。  おそるおそる顔を上げると、浅海さんは思いの外穏やかな表情で俺を見ていた。 「判ったら、大人しく来週まで待て」 「……はい」  そんなことを言われたらそう頷くしかなくて。  俺は、浅海さんの勘のよさと思考回路を少し呪った。  もう少し鈍くたって、その人の良さは隠せやしないのに、と。 「だから、明日のお前には用事を申し付ける」 「はい?」 「今週この通り、俺は夜まで学校に詰めてなきゃならんのだよ」 「はあ」 「明日の放課後、転校生の教科書入ったか訊いてきてくれないか?」 .
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