引き続き、彼の観察。

20/20
242人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
  「ふざけるな。うちの生徒は関係ないだろう。……彼女もだ」  仁志くんのその声の中には、苛立ちと緊張感が混ざり合っていた。 「……うちの生徒? 彼女……? 何のこと……」  さっきまで泣いていたメグは、目の周りを擦りながら眉根を寄せた。  すぐそばで、体育館の壁を蹴るような音がした。  その音の思わぬ大きさに驚いて、私とメグは慌てて壁に張り付く。  気配を消すのが精一杯で、それ以上先に進めない。  メグと顔を見合わせながら、呼吸する音まで気を遣って、ゆっくりと深呼吸をする。  ややあって、今まで聴いたことのないような低い声が、渇いた冷たい風の中に混じった。 「彼女に何かあったら、俺がお前を殺す」  ──……!  ガチガチに身体が固まった。  仁志くんの溜め息と共に、携帯をパチンと閉じる音がして──カサカサと足音が遠ざかっていくのが判った。  やがてその足音も聞こえなくなって、私とメグはへなへなとその場に座り込む。 「あ、朱音……今の」 「うん……」 「仁志くん、よね……?」  何となく声が出せなくて、黙ったまま頷いた。  すると、メグは「信じられない……」と一言呟いたきり、溜め息をこぼす。  メグが自分のことも忘れ、そんな感想を漏らすのも、無理はなかった。  ……だって、きっと今の声を聞いた私達にしか判らないだろうけど……。 『彼女に何かあったら、俺がお前を殺す』  そう言った仁志くんの声は、本気だったから。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!