ささやく声と手。

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  「面倒だから、さっさと焼けぼっくいに火でも点かないかなって思ってる。うちの旦那も」 「面倒って、ひどくない?」 「逆にあたしの立場に立って考えてみなさいよ。あなた達が別れてから7年よ、7年。あたしだってもう30前なのよ」 「……面倒って思われる程、佐奈ちゃんや額田先生の手を煩わせた覚え、ないんだけど」 「だからよけい心配させてるの。長い時間うだうだぐずぐずしてるの見てるくらいなら、一晩わあっと泣かれて縋られた方がマシな気がするわ」 「そんなにあたし、ぐずぐずしてる?」 「旦那いわく、そうみたいよ。いつまでもひとりで、新しい男を作ろうともしない。仁志くんといた頃のあなたは、そんな後ろ向きな女に見えなかったって」 「好きでこんなふうに生きてるわけじゃ……」 「じゃ、好きなように生きてみれば? 誰も止めないわよ」  四方八方から追い詰めてくるような佐奈ちゃんの言葉。  確かに、長年黙って見守ってきた人間の忍耐の中の苛立ちが見えるけど。  言われなくても判ってる……と反論したところで、佐奈ちゃんには鼻で笑われてしまうんだろう。 .
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