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「いいの? 友達、帰っちゃったけど」
ふあ……とあくびをしながら、岳ちゃんはあたしを見下ろした。
目が疲れてるんだ、と言って眼鏡を外した岳ちゃんの顔をちらっと見ながら、むっとして見せる。
「何だよ、まだ怒ってんのかよ」
「当たり前でしょ」
「別に、隣り合わせのボックスの客の話が聞こえてくることなんて、よくあることじゃん」
「それが知り合いなら、声をかけるのが普通でしょ! 真後ろに岳ちゃんがいるって判ってたら、あんな話……」
「でも、俺に聞かれて困る話じゃなくない?」
岳ちゃんは苦めの含み笑いを見せると、通りかかったバス停に据え付けられた小さな灰皿の前で煙草を咥えた。
「むしろ、ハルにとっちゃいい口実なんじゃないの」
「口実って、何の……」
「俺のこと、振る口実」
岳ちゃんの本意は不明にしろ、このひとはあたしを口説こうとした。
そういう意思を持って、手に触れてもきた。
……警戒して構えても当然だ。
そんなことなど気にも留めない様子で、岳ちゃんはカチリと100円ライターで煙草に火を点ける。
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