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「何、怒ってんの」
「あたしのどこが、都合のいい女なの」
「あんだけ言われて、まだ判ってないの?」
岳ちゃんはあたしから視線を外し、煙草を咥え正面の真っ黒のガラスを見る。
とっくに閉店したスイーツ専門のカフェ。そのウィンドウは、彼の黒いコートと完全に同化していた。
岳ちゃんはフッと小さく笑うと、再びあたしを見た。
思わず身をすくめる。
たった今までふざけていたような岳ちゃんの瞳が、今は傷ついた心を隠さずに剥き出しにしているからだ。
「昔の男のせいにしたいとか、どんだけ甘えてんの。そんな酷いこと、よくできるよな」
「酷……い?」
岳ちゃんの瞳が怖くて、無意識に一歩後ろに下がる。
「さっきハル達の話聞いてるだけで、1週間分くらい疲れた。何回もアイスコーヒー飲んでんのに、喉がカラッカラに焼け付きそうでさ」
「……岳ちゃん……」
「何だろうな。醤油とか酢を一気飲みしたらこんな感じかな、とか自分の感情を一生懸命文章に組み立ててる自分がおかしくて、時々我に返ったりしたけど」
痛い、という感覚をあからさまにした岳ちゃんの瞳に、睫毛がかかる。
「嫉妬ってこんなのかな、って。初めて実感したかも」
少し震えたその声に、ぞっとした。
……恋を、している。
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