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大人びた冷静な口調でそう言いながら、一星くんは自分のカップにたっぷりとミルクを注いでいる。
あたしが兄貴と大喧嘩をしてから、もう5年になるだろうか。
兄と妹の縁を切る、とまで喚き散らしここで泣いた時のことを思い出す。
仁志くんと別れてからしばらく、兄貴はあたしを慰めるために甲斐甲斐しく実家に通ってくれた。
持つべきものは歳の離れた優しい兄だ、と深く感謝したのも束の間。
仁志くんと別れてから2度目の冬、織部家に危機が訪れた。
こともあろうに兄貴は、あたしが未練の中でこぼした恋の一部始終を小説として日本全国に刊行したのだ。
わざわざ美園さんを飛び越え、来栖さんと共謀して。
来栖さんは、あたし達兄妹の叔父にあたる男性で、青優社に勤めている。美園さんの上司でもあった。
さすがに兄貴もプロの小説家だから、事実をまま書かれたわけではなかった。
でも、仁志くんとあたしのことを知っている人なら、すぐにピンとくるような内容だった。
いつもなら実家にも兄貴から本が送られてくるというのに、その時は全く知らせもなかった。
あたしが本屋で見つけなければ、未だに気付かなかったかも知れない。
初版限定だったというのも確信犯だったんだろう。
失恋の傷が更に深くなったのはそのせいじゃないかと、あたしは未だに軽く根に持っていた。
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