ささやく声と手。

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   紅茶に口をつけながら、ふと思い返す。  岳ちゃんに押し付けられたあの本をまだ読んでいないことを。  この間、彼に無理やりキスされたことまで思い出し、その場で頭をかきむしってソファーの下に隠れてしまいたくなってしまう。  すると、奥の部屋のドアが開いた。  疲れた様子の美園さんがふらふらと現れ、あたしはぺこりと頭を下げた。 「ごめんね、陽香ちゃん。お待たせ……」  胸元までの髪を後ろに流すと、美園さんはそのまま正面のソファーに腰を下ろす。 「かーさんも紅茶飲む?」 「うん、お願い」  はーい、といい返事をして一星くんはキッチンの方へ歩いていった。 「克行さん、言うだけ言って、寝ちゃった。勝手なんだから」 「兄貴、いつもそうだよね。美園さんをバックアップメモリーか何かだと思ってるんじゃない」 「その通りよ、参っちゃう」  言いながら、美園さんはクスッと笑った。  その目元に、隠しきれない兄貴への愛情が宿っている。  この夫婦はいつも安定していて、それを目の当たりにする度安心し、少し羨ましく思った。 「それで、今日はどうしたの?」  用件を伝えず訪ねる、とだけ言っていたものの、疲れている様子の美園さんにだらだらと長話をすることが躊躇われた。要点だけすっぱりと。  そう思うけど、どう話したものか……とここに来て迷いが生じる。 .
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