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あたしは半ば恨みを込めた瞳で、佐奈ちゃんを見つめた。
ほとんど、睨んでる。
佐奈ちゃんはカフェオレのカップに口をつけながら、知らん顔をしていた。
けど、やがて口の端にだんだんと笑みがかたどられていく。
「……ひどい! ひどいよ佐奈ちゃん……!」
さっき運ばれてきたレモンティーからは、すっかり湯気が消えていた。
仁志くんに駅まで無言で送られたその日のうちに、佐奈ちゃんに電話をかけた。
警察署で彼と再会した日は混乱していて頭が回らなかったけど、海棠高校は佐奈ちゃんの職場でもあることを思い出したんだ。
佐奈ちゃんは「来たわね」とその話題を待っていたようだった。
そうして翌日、さっそくいつも会うカフェでこうして待ち合わせたあたしと佐奈ちゃんの無言の応酬は、さっきからもう5分程続いている。
ぶはっ、と吹き出して先に音を上げたのは佐奈ちゃんだった。
「言ったからって何か変わった? そうやって、ひとりで悶々とするだけでしょ?」
「……でも、4月から同じ職場だったくせに黙ってるなんて……」
「生産性のないこと、あまりしたくないもの」
あたしの性格をすっかり見透かしている佐奈ちゃんはにやにやと笑うだけ笑って、きゅっと口元を引き締める。
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