242人が本棚に入れています
本棚に追加
織部さんの話を振った時の動揺は、ちょっと可愛かったけど……。
私がお弁当箱を片付けながらぼんやりと考え込んでいると、保健室の扉がガラッと開かれる。
「お、いたいた」
浅海先生だ。
浅海先生はメグを見つけるなり、はあっと溜め息をついて中に入ってくる。
「お前、どこに雲隠れしてんのかと思ったよ。ここんとこ、放送部室の前にいないから」
「だって、あそこもう寒いもん」
浅海先生の“雲隠れ”という言葉を気にしてか、メグは俯いてしまった。
「浅海先生、どうしたんですか?」
私が代わりに訊ねると、浅海先生はがりがりと後頭部を掻きながら机の前に立った。
「久遠寺が、しつこくてな」
浅海先生が言いにくそうにそう言うと、メグは机の脚をコンと軽く蹴る。
「……だから、逃げてきたんじゃん。ここに」
メグの言葉の意味が判らなくて、私と涼太くんは顔を見合わせた。
確かに、久遠寺さんの来なさそうなところでごはん食べたい、って言い出したのはメグだけど……。
メグはぎゅっと口唇を噛みしめた。
「あの女、何なの。あたしがこの学校で楽しそうにしてるのが気に入らないって、たったそれだけの理由でわざわざやって来てさ」
メグは膝の上のハンバーガーの残りを、包み紙ごとぎゅっと握り締めてしまう。
「……メグ?」
そのままメグは立ち上がると、ハンバーガーの残りをゴミ箱の中に投げ捨てた。
「あたしが愛人の娘なら、あの女は何なのよ! 何の権利があって、あたしにあんな……!」
「め、メグ……!?」
メグは浅海先生をキッと見上げると、いきなりはらはらと泣き出した。
「……あ、あの女、知ってるんだもん……あさみんとあたしのこと、知っててここに来たんだ……」
「ええ!?」
驚いた声を出したのは、涼太くんと佐奈先生。
私も、声も出せない程驚いた。
「……愛美」
浅海先生が、メグに向かってそっと手を伸ばす。
メグはその手から逃れるようにそっと身を引いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!