ささやく声と手。

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   17歳の自分が心の底で叫んでる。  あの日の続きを、あの日から始めたいんだと。  それでも時間は後ろから押し流してくるし、何も納得していないまま無理やり歩き出したあたしの心に残るのは爪痕ばかり。  本当は、とっくの昔に判っていた。  あの日、泣いてかぶりを振るばかりでなく、仁志くんに泣いて縋ればよかったんだと。  仁志くんの決意が揺らぐのが先か、あたしの心が本当の意味で折れるのが先か──それとも、2人一緒に壊れるか。  あたしはただ、仁志くんが、欲しかった。  けれど自分の恋が壊れるかも知れないことがまた、恐怖だった。  大切に大切に育ててきた甘い恋が、惜しかった。  あの日、仁志くんはあたしを選ばなかった。  だからあたしも、仁志くんを選ぶことができなかった。  2人一緒に2人の危機に向き合うことができず、2人一緒に逃げた。  その事実に、蓋をしていたかった。  だからと言ってひとりで生きる自信もないから、捨てられて可哀相な女でいたかった。  甘やかされていたかった。  あたしは自分の不甲斐なさと情けなさを、また人知れずひっそりと恥じた。 「判んない。そんなの。そんなやり方、思いつかない」 .
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