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「……だから、話をしてみればいいんじゃないかな、って思うんだけどね。あたしは」
「え……?」
「何も考えないで、2人であの時の気持ちを打ち明け合ってみたらいいじゃない」
佐奈ちゃんはすっかりぬるくなっているカフェオレを飲み干してしまうと、息をついた。
「陽香は、頭の中だけで色々考えすぎ。口に出してみて初めて判ることがあるって、判らない程子どもじゃないでしょ? 仁志くんと別れた時に言いたくても言葉にできなかったこと、今口にしたら──自分がどうしたいのかも、判るんじゃない?」
「……それが、怖い」
「……」
「だって、あたし、昔から仁志くんのペースに乗せられっぱなしだったもん。今の彼、その頃よりずっと大人で──」
「流されたらどうしよう、って?」
溜め息をつきながら、佐奈ちゃんは今にも燃え尽きそうな煙草を灰皿の中でもみ消した。
「ばかね」
クス、と眉尻を下げて微笑んだ佐奈ちゃんの瞳に、母親のような慈悲が満ちている。
「女は、気持ちいいことだけに囲まれて笑ってるだけのお飾りじゃないの。そりゃあ、たまには何にでも流されていくだらしない女もいるだろうけど。陽香は違うでしょ。仁志くんに流されたいから、仁志くんに委ねてたんでしょ。全部。まるっと」
「……いやらしい言い方しないでよ」
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