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「……いらない──なんて、そんなこと、人に言うものじゃない……仁志くんにだって、言えるわけないでしょ……」
すると、仁志くんはきょとん……とした。
あたしのそんな答えなんて、考えたこともなかったとでも言うように。
あたしの腰に手を回したまま、仁志くんはふっと笑った。
仁志くんはあたしの両手を自分の両手で包み、そこに視線を落とした。
しばらくそうして黙ってから──ぽつりと口を開く。
「俺、ちょっと、片付けなくちゃいけないことがあって」
「……え?」
眉根を寄せ、仁志くんの顔を覗き込もうとすると、彼はふっと顔を上げた。
そこには昔と変わらない優しい彼の笑顔。
その笑顔を見ると、自分の抱く意地が一体何だったのか判らなくなりそうになる。
「今、頑張ってるところなんだ」
「……何?」
「言えないんだけど、ごめん」
そう言いながら仁志くんは脱ぎ捨てた衣服を拾い上げ、それを着始めた。
仁志くんは振り返り、肩を竦める。
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