許されざること。

31/32
227人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
  「……いらない──なんて、そんなこと、人に言うものじゃない……仁志くんにだって、言えるわけないでしょ……」  すると、仁志くんはきょとん……とした。  あたしのそんな答えなんて、考えたこともなかったとでも言うように。  あたしの腰に手を回したまま、仁志くんはふっと笑った。  仁志くんはあたしの両手を自分の両手で包み、そこに視線を落とした。  しばらくそうして黙ってから──ぽつりと口を開く。 「俺、ちょっと、片付けなくちゃいけないことがあって」 「……え?」  眉根を寄せ、仁志くんの顔を覗き込もうとすると、彼はふっと顔を上げた。  そこには昔と変わらない優しい彼の笑顔。  その笑顔を見ると、自分の抱く意地が一体何だったのか判らなくなりそうになる。 「今、頑張ってるところなんだ」 「……何?」 「言えないんだけど、ごめん」  そう言いながら仁志くんは脱ぎ捨てた衣服を拾い上げ、それを着始めた。  仁志くんは振り返り、肩を竦める。 .
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!