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散々泣いた後の陽香の目尻が、少し赤く腫れていた。
自分のせいだと思うと胸が痛かったけど、その理由を考えたら──少し、幸せな気持ちになった。
腕の中で小さく丸まる陽香は、「ん……」と声を漏らして俺に身を寄せる。
眠っているさなかのその行動に意味はないと判ってはいても、やっぱり嬉しくなってしまった。
昔のように素直に口には出してくれないけれど、彼女が今も俺を好きでいてくれている、ということは充分伝わっている。
陽香が意地を張って「仁志くんなんて嫌い」と言えば言う程、堪らない気持ちになる。
陽香が俺に「嫌い」を繰り返せば繰り返す程、彼女の空白の日々が俺にも判るから。
昔、朱音ちゃんが俺に言った言葉をふと思い出した。
いや、正確には朱音ちゃんの言葉ではないけれど──朱音ちゃんを介して聞いた言葉だから、心に残っているんだと思う。サミュエル、だっけ。
“心を込めた言葉は、言葉が違っても伝わる”と。
留学講師だったというサミュエルは、おそらく国や言葉の違いのことを言ったんだろうけど。
日本語だって、それを実感できるものなんだな……と今さらながら深く納得できた。
俺は腕の中のふんわりとした温もりを更にぎゅっと抱きしめ、やわらかい髪の感触に息をついた。
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