耽溺してもいいですか?

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   目を覚ますと、消毒薬の匂いのする処置室だった。  昔、高校の保健室がそうだったように、カーテンの向こう側に蛍光灯の白い光があるのが判る。  あたしが目覚めた気配を感じたのか、外側からカーテンがそっと開けられる。  仁志くんだった。 「……陽香、大丈夫?」 「ここ……?」 「病院だよ。救急隊員の人が心配してくれて、一緒にって」  はー……と全身で息をつきながら、気を失う前にあったことを思い返す。  身体に触れてきた男の顔を思い出して、さーっと体温が下がるのを感じた。  喉の奥に違和感がせり上がってきて、思わず口を押さえる。 「……吐きそう……」 「いいよ、気分悪そうならこのトレイに吐いていいって看護師さんが」  仁志くんが差し出した処置用のトレイを見て、口を押さえ首を左右に振った。 「もう少し、こうしててもいい……? 我慢、できると思う……」 「かまわないよ。刑事さんも、いったん帰っちゃったし」 「刑事さん……」  そうだ……チカンに遭って仁志くんと浅海さんが助けてくれて……。  また自分は被害者だったのか、と考えた瞬間──理由のない悔しさが喉を塞いでくる。 .
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