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信じられない。さっき、この人はメグに“浅海亮をちょうだい”と言わなかった?
どういういきさつがあってその要求に至ったのかは判らないけど、そんな言い方をするくらいだ。
普通に考えれば、久遠寺さんは浅海先生のことを好きなのかと思ったけど──。
私は、上履きに足を差し込む久遠寺さんを見ながら、違う……と思った。
浅海先生を見る久遠寺さんの目は──恋をしている目じゃない。
久遠寺さんはふうとひとつ溜め息をつくと、遠くからの足音を聞き付けふっと笑った。
「いけない。私、鬼ごっこの途中なんだった。じゃあ芹沢さん、浅海先生、またね」
何事もなかったかのようにヒラリとスカートを揺らすと、久遠寺さんは階段を軽快に降りていく。
「ま……待って! 久遠寺さん!!」
それを慌てて追おうとした私の手を、強い腕ががしっと掴んで引き寄せた。
え……と振り返ると、私の手を掴んでいるのは浅海先生だった。
「……待て、ひとりで、追うな……」
「でも、先生……!」
「危ない、から……あの女、普通じゃねえ……」
言いながらどこか痛むのか、浅海先生はわずかに顔を歪める。
ハアと息をついて、浅海先生はもう一度メグを揺すった。
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